数学における証明と真理―様相論理と数学基礎論―の p.130 において,高さが無限だが \(\Sigma_1\)-健全でない理論の存在を述べたが,ここではそのような理論の例を示しておく.
Iterated consistency statements を定める.
定義. |
自然数 \(n\) に対して \(\Pi_1\) 文 \({\rm Con}_T^n\) を以下で再帰的に定義する.
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続いて理論の高さを定める(この概念は実は理論に対してではなく,理論の証明可能性述語に対して定められる概念であるが,ここではその違いについては目をつぶることにする).
定義. |
\(T \vdash \neg {\rm Con}_T^n\) となる \(n\) があるとき,そのような最小の \(n\) を \(T\) の高さという. また,そのような \(n\) がなければ高さは無限であるという. |
命題. |
理論 \(T\) が \(\Sigma_1\)-健全ならば \(T\) の高さは無限である. |
証明.
\(T\) を \(\Sigma_1\)-健全とする. 全ての \(n\) について \(T \nvdash \neg {\rm Con}_T^n\) となることを \(n\) に関する帰納法で示す.
この命題の逆はいえない.
命題. |
高さが無限だが \(\Sigma_1\)-健全でない理論が存在する. |
証明.
理論 \(T_0 = {\sf PA} + \{{\rm Con}_{\sf PA}^n : n \in \omega\}\) は \({\sf PA}\) の無矛盾な再帰的拡大理論なので,その \(\Pi_1\) Gödel 文 \(\varphi\) をとれば \(T_0 \nvdash \varphi\) かつ \(\mathbb{N} \models \varphi\) である.
ここで \(T : = {\sf PA} + \neg \varphi\) と定めると \(T\) は偽である \(\Sigma_1\) 文 \(\neg \varphi\) を証明するので \(\Sigma_1\)-健全ではない. \(T\) の高さが無限であることを示せばよい. そのために次の主張を示す.
主張.
任意の \(n \in \omega\) について \(T\vdash \neg {\rm Con}_T^n \leftrightarrow \neg {\rm Con}_{\sf PA}^n\).
\(n\) に関する帰納法で示す.
さて,\(T \vdash \neg {\rm Con}_T^n\) となる \(n\) があったとすると,主張より \(T \vdash \neg {\rm Con}_{\sf PA}^n\),つまり \({\sf PA} + \neg \varphi \vdash \neg {\rm Con}_{\sf PA}^n\) である. よって \({\sf PA} + {\rm Con}_{\sf PA}^n \vdash \varphi\) なので特に \(T_0 \vdash \varphi\) となり,\(\varphi\) の取り方に反する. したがって,全ての \(n \in \omega\) について \(T \nvdash \neg {\rm Con}_T^n\) である.
2019/05/27