以降では \(T\) を \({\sf PA}\) の拡大理論とし,\(\Gamma\) を算術の論理式の集合とする.
定義. |
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すなわち健全であるということは \(\mathbb{N}\) をモデルにもつことに他ならない. \(\Gamma\)-健全性に関する基本的な性質を示しておく.
命題 1. |
理論 \(T\) は無矛盾 \(\iff T\) は \(\Sigma_0\)-健全. |
証明.
(\(\Rightarrow\)): \(T\) が無矛盾とする. \(\varphi\) を \(\Sigma_0\) 文とし,\(T \vdash \varphi\) とする. いま \(\mathbb{N} \models \neg \varphi\) ならば \(T\) の \(\Sigma_1\)-完全性より \(T \vdash \neg \varphi\) となるため
\(T\) の無矛盾性に反する. したがって \(\mathbb{N} \models \varphi\) である. つまり \(T\) は \(\Sigma_0\)-健全である.
(\(\Leftarrow\)): \(T\) が \(\Sigma_0\)-健全とする. いま \(T \vdash 0 = 1\) とすると \(0 = 1\) は \(\Sigma_0\) 文なので \(\mathbb{N} \models 0 = 1\) となるためおかしい. したがって \(T \nvdash 0 = 1\) なので \(T\) は無矛盾である.
命題 2. |
理論 \(T\) は \(\Sigma_n\)-健全 \(\iff T\) は \(\Pi_{n+1}\)-健全. |
証明.
\((\Rightarrow)\): \(T\) が \(\Sigma_n\)-健全であるとする. \(\varphi(x)\) を \(\Sigma_n\) 論理式とし,\(T \vdash \forall x \varphi(x)\) とする. 任意の \(k \in \omega\) について \(T \vdash \varphi(\overline{k})\) なので,\(T\)
の \(\Sigma_n\)-健全性より,任意の \(k \in \omega\) について \(\mathbb{N} \models \varphi(\overline{k})\) である. つまり \(\mathbb{N} \models \forall x \varphi(x)\) である. したがって \(T\) は \(\Pi_{n+1}\)-健全である.
\((\Leftarrow)\): \(\Sigma_n \subseteq \Pi_{n+1}\) なので明らか.
命題 3. |
\(T\) が \(\Sigma_n\)-健全で \(\varphi\) を \(\mathbb{N} \models \varphi\) となる \(\Sigma_{n+1}\) 文とすると,\(T + \varphi\) も \(\Sigma_n\)-健全. |
証明.
\(T\) と \(\varphi\) は条件を満たすとする. \(\psi\) を \(\Sigma_n\) 文とし,\(T + \varphi \vdash \psi\) とする. このとき \(\neg \varphi \lor \psi\) は \(T\) において証明可能な \(\Pi_{n+1}\) 文である. 命題 2 より \(T\) は
\(\Pi_{n+1}\)-健全なので \(\mathbb{N} \models \neg \varphi \lor \psi\) である. \(\mathbb{N} \models \varphi\) なので \(\mathbb{N} \models \psi\) となる. したがって \(T + \varphi\) が \(\Sigma_n\)-健全であることが示せた.
続いて理論の \(\Gamma\)-無矛盾性の概念を導入する.
定義. |
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\(\omega\)-無矛盾性の概念はよく知られている通り Gödel [Göd31] によって導入されたものである. ここでいう \(\Pi_{n-1}\)-無矛盾性の概念は"\(n\)-無矛盾性"という名で Kreisel [Kre57] によって導入されたものである. \(\Gamma\)-無矛盾性に関する基本的な性質も述べておく.
命題 4. |
理論 \(T\) は \(\Pi_n\)-無矛盾 \(\iff T\) は \(\Sigma_{n+1}\)-無矛盾. |
証明.
\((\Rightarrow)\): \(T\) が \(\Pi_n\)-無矛盾であるとする. \(\varphi(x, y)\) を \(\Pi_n\) 論理式とし,全ての自然数 \(k\) について \(T \vdash \neg \exists y \varphi(\overline{k}, y)\) となるとする. このとき全ての \(k, l\) について \(T \vdash
\neg \varphi(\overline{k}, \overline{l})\) となる. いま \(\Pi_n\) 論理式 \(\psi(z)\) を \(\forall x \leq z \forall y \leq z(z = \langle x, y \rangle \to \varphi(x, y))\) とすると,任意の \(m\) について,\(m = \langle
k, l \rangle\) となる \(l \leq m\) と \(k \leq m\) がとれて \(T \vdash \neg \varphi(\overline{k}, \overline{l})\) となるので,\(T \vdash \neg \psi(\overline{m})\) である. \(T\) は \(\Pi_n\)-無矛盾なので \(T \nvdash
\exists z \psi(z)\) である. \({\sf PA} \vdash \exists x \exists y \varphi(x, y) \leftrightarrow \exists z \psi(z)\) であるから \(T \nvdash \exists x \exists y \varphi(x, y)\) となる. したがって \(T\) は
\(\Sigma_{n+1}\)-無矛盾である.
\((\Leftarrow)\): \(\Pi_n \subseteq \Sigma_{n+1}\) なので明らか.
それでは \(\Sigma_n\)-健全性と \(\Sigma_n\)-無矛盾性の関係を調べていく. はじめに健全性から \(\omega\)-無矛盾性が導かれることを示しておく.
命題 5. |
理論 \(T\) は健全 \(\Rightarrow T\) は \(\omega\)-無矛盾. |
証明.
\(T\) を健全な理論とする. 任意の自然数 \(n\) について \(T \vdash \neg \varphi(\overline{n})\) とする. \(T\) は健全なので \(\mathbb{N} \models \neg \varphi(\overline{n})\) となるが,\(n\) は任意だったので \(\mathbb{N} \models \forall x
\neg \varphi(x)\) となる. 再び \(T\) は健全なので \(T \vdash \exists x \varphi(x)\) となることはあり得ない. したがって \(T\) は \(\omega\)-無矛盾である.
この命題は次のように精密化できる.
命題 6. |
理論 \(T\) は \(\Sigma_n\)-健全 \(\Rightarrow T\) は \(\Sigma_n\)-無矛盾. |
証明.
\(T\) を \(\Sigma_n\)-健全な理論とする. \(\varphi(x)\) を任意の \(\Sigma_n\) 論理式とし,任意の自然数 \(k\) について \(T \vdash \neg \varphi(\overline{k})\) とする. \(T\) は \(\Sigma_n\)-健全なので,命題 2 より $T$ は \(\Pi_{n+1}\)-健全である.
したがって \(\mathbb{N} \models \neg \varphi(\overline{k})\) となるが,\(k\) は任意だったので \(\mathbb{N} \models \forall x \neg \varphi(x)\) となる. いま \(T \vdash \exists x \varphi(x)\) とすれば \(T\) の
\(\Sigma_n\)-健全性より \(\mathbb{N} \models \exists x \varphi(x)\) となりおかしい. よって \(T \nvdash \exists x \varphi(x)\) である. 以上より \(T\) は \(\Sigma_n\)-無矛盾であることが示せた.
後に示すように,この逆は成立しない. しかし理論がある程度の強さをもっていれば逆が成立する. このことを述べるために次の概念を導入する.
定義. |
理論が \(\Gamma\)-完全であるとは,任意の \(\Gamma\) 文 \(\varphi\) について,\(\mathbb{N} \models \varphi\) ならば \(T \vdash \varphi\) となることをいう. |
例えば \({\sf PA}\) の拡大理論は \(\Sigma_1\)-完全である. この概念の基本的な性質を挙げておく.
命題 7. |
理論 \(T\) が \(\Pi_n\)-完全 \(\iff T\) は \(\Sigma_{n+1}\)-完全. |
証明.
\((\Rightarrow)\): \(T\) が \(\Pi_n\)-完全であるとする. \(\Pi_n\) 論理式 \(\varphi(x)\) について \(\mathbb{N} \models \exists x \varphi(x)\) とする. このときある自然数 \(k\) について \(\mathbb{N} \models \varphi(\overline{k})\)
であるから,\(T\) の \(\Pi_n\)-完全性より \(T \vdash \varphi(\overline{k})\) である. したがって \(T \vdash \exists x\varphi(x)\) なので \(T\) は \(\Sigma_{n+1}\)-完全である.
\((\Leftarrow)\): \(\Pi_n \subseteq \Sigma_{n+1}\) なので明らか.
\(\Gamma\)-完全性の概念は理論の完全性とは直接的には無関係であるが,間接的には次のことが成り立つ.
命題 8. |
理論 \(T\) が全ての \(n\) について \(\Sigma_n\)-完全 \(\Rightarrow\) \(T\) は完全. |
証明.
\((\Rightarrow)\): \(T\) は全ての \(n\) について \(\Sigma_n\)-完全とする. \(\varphi\) を任意の文とすると \(\mathbb{N} \models \varphi\) もしくは \(\mathbb{N} \models \neg \varphi\) である. \(\varphi\) と \(\neg \varphi\) が共に
\(\Sigma_k\) 文であるような \(k\) がとれるが,\(k\) の \(\Sigma_k\)-完全性より \(T \vdash \varphi\) または \(T \vdash \neg \varphi\) となる.
さて,理論にある程度の強さがあれば,命題 6 の逆が成り立つことを示す.
定理 9. |
理論 \(T\) が \(\Sigma_{n+1}\)-無矛盾かつ \(\Sigma_n\)-完全 \(\Rightarrow T\) は \(\Sigma_{n+1}\)-健全. |
証明.
\(\varphi(x)\) を \(\Pi_n\) 論理式として,\(T \vdash \exists x \varphi(x)\) であるとする. \(T\) の \(\Sigma_{n+1}\)-無矛盾性より,ある自然数 \(k\) が存在して \(T \nvdash \neg \varphi(\overline{k})\) となる. もし \(\mathbb{N} \models
\neg \varphi(\overline{k})\) ならば \(T\) の \(\Sigma_n\)-完全性より \(T \vdash \neg \varphi(\overline{k})\) となるためおかしい. よって \(\mathbb{N} \models \varphi(\overline{k})\) であり,\(\mathbb{N} \models \exists x
\varphi(x)\) である. 以上より \(T\) は \(\Sigma_{n+1}\)-健全である.
\(T\) は \(\Sigma_1\)-完全なので次が成り立つ.
系 10. |
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\(\Sigma_{n+2}\)-無矛盾性から \(\Sigma_{n+2}\)-健全性を導くには,実は \(\Sigma_{n+1}\)-完全性よりも弱い条件があれば充分である. このことを述べるために次の概念を導入する.
定義. |
理論が \(\Gamma\)-決定的であるとは,全ての \(\Gamma\) 文 \(\varphi\) について \(T \vdash \varphi\) もしくは \(T \vdash \neg \varphi\) となることをいう. |
これは理論の完全性の概念を精密化したものである. 例えば Gödel-Rosser の第一不完全性定理は,理論 \(T\) が無矛盾かつ \(\Sigma_1\)-定義可能であれば \(\Sigma_1\)-決定的でない,という形で述べることができる. \(\Gamma\)-完全性との関係は次の通りである.
命題 11. |
以下は同値:
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証明.
\((1 \Rightarrow 2)\): \(T\) が \(\Sigma_{n+1}\)-完全かつ無矛盾とする. \(\varphi\) を任意の \(\Sigma_n\) 文とする.
\((2 \Rightarrow 1)\): \(T\) が \(\Sigma_n\)-決定的かつ \(\Sigma_n\)-健全とする. 命題 1 より \(T\) は無矛盾である. 命題 7 より \(T\) が \(\Pi_n\)-完全であることを示せば十分である. \(\varphi\) を任意の \(\Pi_n\) 文とし,\(\mathbb{N} \models \varphi\) とする. \(T \vdash \neg \varphi\) とすると \(T\) の \(\Sigma_n\)-健全性より \(\mathbb{N} \models \neg \varphi\) となるためおかしい. したがって \(T \nvdash \neg \varphi\) である. \(T\) は \(\Sigma_n\)-決定的なので \(T \vdash \varphi\) となる. 以上より \(T\) は \(\Pi_n\)-完全である.
命題 11 より,定理 9 における \(T\) が \(\Sigma_n\) であるという仮定は,\(T\) が \(\Sigma_{n-1}\)-決定的かつ \(\Sigma_{n-1}\)-健全であるという仮定と同値である. この観点から定理 9 を次のように改良することができる.
定理 12. |
\(T\) が \(\Sigma_{n+2}\)-無矛盾かつ \(\Sigma_n\)-決定的 \(\Rightarrow T\) は \(\Sigma_{n+2}\)-健全. |
証明.
\(n\) に関する帰納法で示す.
系 13. |
以下は同値:
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証明.
定理 12 より \(T\) は \(\Sigma_n\)-決定的かつ \(\Sigma_n\)-健全 \(\iff T\) は \(\Sigma_n\)-決定的かつ \(\Sigma_n\)-無矛盾,となるため.
ここでは,ある性質がある性質を導かないことを示す. まずは \(\Sigma_n\)-健全性が \(\Sigma_{n+1}\)-健全性を一般には導かないことを示す.
命題 13. |
\(\Sigma_n\)-健全な任意の理論 \(T\) に対してある \(\Sigma_{n+1}\)-文 \(\varphi\) が存在して,\(T + \varphi\) は \(\Sigma_n\)-健全であるが \(\Sigma_{n+1}\)-健全でない. |
証明.
\(T\) を \(\Sigma_n\)-健全な理論とする. \({\rm RFN}_{T + x}(\Sigma_n)\) を "\(T + x\) が \(\Sigma_n\)-健全"であることを表す \(\Pi_{n+1}\) 論理式とする. すなわち \({\rm RFN}_{T + x}(\Sigma_n)\) は \[ \forall y(\Sigma_n(y) \land
{\rm Pr}_T(x \to y) \to {\sf Tr}_{\Sigma_n}(y)) \] とかける. 不動点定理より,次を満たす \(\Sigma_{n+1}\) 文 \(\varphi\) がとれる: \[ {\sf PA} \vdash \varphi \leftrightarrow \neg {\rm RFN}_{T + \varphi}(\Sigma_n). \]
\({\sf PA}\) の健全性より,この同値性は \(\mathbb{N}\) においても成り立つ.
系 10 において \(\omega\)-無矛盾性が \(\Sigma_2\)-健全性を導くことを示したが,これを \(\Sigma_3\)-健全性に強めることはできない. したがって命題 6 の逆は一般には成り立たない. 証明の方針は命題 13 とほぼ同じである.
命題 14. |
健全な任意の理論 \(T\) に対してある \(\Sigma_3\) 文 \(\varphi\) が存在して,\(T + \varphi\) は \(\omega\)-無矛盾であるが \(\Sigma_3\)-健全でない. |
証明.
\(\omega\)-\({\rm Con}_{T + x}\) を "\(T + x\) が \(\omega\)-無矛盾"であることを表す \(\Pi_3\) 論理式とする. \(\omega\)-\({\rm Con}_{T + x}\) は雑だが \[ \forall y({\sf Fml}(y) \land \forall z{\sf Pr}_{T}(x \to \neg
y(z)) \to \neg {\sf Pr}_T(x \to \exists z(y))) \] のようにかける. 不動点定理より,次を満たす \(\Sigma_3\) 文 \(\varphi\) がとれる: \[ {\sf PA} \vdash \varphi \leftrightarrow \neg \omega\text{-}{\rm Con}(T + \varphi). \]
命題 6 において \(\Sigma_n\)-健全性が \(\Sigma_n\)-無矛盾性を導くことを示したが,これを \(\Sigma_{n+1}\)-無矛盾性に強めることはできない.
命題 15. |
\(T\) を \(\Sigma_n\)-健全な理論とすると,\(T\) の拡大理論で \(\Sigma_n\)-健全であるが \(\Sigma_{n+1}\)-無矛盾でないものが存在する. |
証明.
\(n = 0\) の場合は \(\Sigma_1\)-健全性と \(\Sigma_1\)-無矛盾性が同値であること(系 10)から,命題 13 より \(\Sigma_0\)-健全だが \(\Sigma_1\)-無矛盾でない理論の存在が既に示せている. したがって \(n \geq 1\) としてよい. 命題 13 より,\(T + \varphi\) が
\(\Sigma_n\)-健全であるが \(\mathbb{N} \models \neg \varphi\) となる \(\Sigma_{n+1}\) 文 \(\varphi\) がとれる. また \(\varphi\) は \(\Sigma_{n-1}\) 論理式 \(\delta(x, y)\) について \(\exists x \forall y \delta(x, y)\)
という形であるとしてよい. \(\mathbb{N} \models \forall x \exists y \neg \delta(x, y)\) なので,各自然数 \(k\) に対して \(\mathbb{N} \models \neg \delta(\bar{k},\overline{m_k})\) となる自然数 \(m_k\) がとれる. \[ T' := T +\varphi
+ \{\neg \forall y \delta(\bar{k}, y) : k \in \omega\} \] と定める.
命題 6 と命題 15 より次の系が得られる.
系 16. |
\(\Sigma_n\)-無矛盾であるが \(\Sigma_{n+1}\)-無矛盾でない理論が存在する. |
2018/03/22